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【後編】東京五輪出場を目指す2つの死を乗り越えたアスリート~陸上選手&Grow Sports代表理事 田口祐貴氏~

浅岡大貴

公開日 :2019/05/02

更新日 :2019/05/31

後編では不動産会社員と陸上選手の2足のわらじを履きながらの経験や陸上教室の講師としての子供たちへの指導、今後のビジョンなどについての競技外でのことについて語っていただいた。

前編はこちら

目次

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大学卒業後は不動産会社員と陸上選手の2足のわらじを

浅岡:大学を卒業してからはどのような道を進まれたんですか?

田口:実業団で走ることを目指してたんですけど、大学4年生の終わりの時に怪我をしてしまって、実業団に行くことができなくなったので、不動産会社に就職をして、そこで働きながら陸上を続けるという形になりました。

浅岡:陸上の練習は個人で行っていたんですか?

田口:はい。個人でやっていました。自分で練習場所を見つけて、練習して、大会も個人でエントリーして出場して。その大会で同じ種目の選手に声をかけて一緒に練習する仲間を増やしていったりしてという風にやっていました。

浅岡:そういった環境の中でも「東京オリンピック」という明確な目標があったから頑張れたんでしょうか?

田口:そうですね。今もですがそこは常に意識してブラさず持っているので、頑張れました。あとは3年のブランクがあっても、もう一度結果を出せるという経験があったので、仕事が忙しくて、個人で練習をしなきゃいけないという環境でも結果は出せると思って1年半ほど社会人と陸上選手をやっていました。

浅岡:社会人と陸上選手の2足のわらじを履いた中で感じたことはありますか?

田口:会社の人からは「お前、足が速くても関係ないからな。」と。「仮に全国大会に出場したとしても、それは仕事とは関係ないからな。」とよく言われましたね。

浅岡:そのようにことを言われてどのように感じましたか?

田口:確かにその通りだなと思いましたね。当たり前の話ですけど、あくまで競技は競技で、仕事は仕事。陸上競技という世間からしたら小さなコミュニティの中で結果を出したとしても、少しは仕事に生かされる部分もあるかもしれませんが、大抵は世間一般で通じるかといったら、通じない。なので、社会人としての力や人間力も高めて、陸上でも仕事でも結果を出さないといけないなとその言葉を言われて感じました。そうして、陸上でも仕事でも結果を出すことで、僕自身もそうですけど、陸上選手にはこういう風に頑張っている選手もいるんだという陸上スポーツ自体も認めてもらえると思うんです。

指導者と生徒という上下の関係ではなく


浅岡:そういった社会人の経験を経て、現在の指導者の道に進んだ訳ですね。不動産会社員から指導者の道に進んだきっかけはなんだったんでしょうか?

田口:友人に誘われたのがきっかけになります。不動産会社でのやりがいよりも自分の得意分野である陸上の指導者の方がやりがいを感じると思ったので、そこから現在の指導者の道に進みました。

浅岡:初めて子供達に指導をしてみて難しさはあったりしましたか?

田口:難しかったですね。一番難しかったのは「自分の伝えたいことの100%全てをどういう伝え方をしたら伝わるのか」ということです。

浅岡:その難しさにどう向き合ったんでしょうか?

田口:自分の伝えたいことを子供達に受け取ってもらうには、指導者と生徒という上下の関係ではなく、子供達と同じ目線に立って、子供たちの心を感じて、一緒に成長していける仲間になることが大切だと思いました。そのために、「とにかくコミュニケーションを取ること」と「自分も子供たちと一緒に成長する」という2つを意識して接しました。

浅岡:「とにかくコミュニケーションを取ること」というのはどういったコミュニケーションを多く取っていったんでしょうか?

田口:学校のことや普段の生活のことなどの陸上以外の話をたくさんしました。指導者なので走り方などを教えるのはもちろんなんですけど、そればかりだと先ほど言った「ただ指導者」になってしまうので、友達のような存在になるには指導以外の会話も必要だと思い、そういった話で子供達とコミュニケーションをとりました。あとは、指導時間以外でドッチビー(フリスビー)を使ってミスなしでパスが何回できるかというゲームだったり、キャッチボールなどをしたりして一緒になって何かに挑戦したりプレイしたりすることもしました。そうしたことで、子供たちとの距離も縮めれて行けたので、よかったと思います。

浅岡:「自分も子供たちと一緒に成長する」というのは、一緒に学び合うといった意味合いでしょうか?

田口:そうですね、例えば、「100mを3本走りましょう」と言って、子供達の走りを横で見ていて、「ここのフォームはもっとこうした方がいい」とかっていう指導もするんですけど、僕は現役選手でもあるので、見本として走りを見せたり、子供達と一緒に走ったりして、一緒に子供たちと陸上を楽しんで一緒に成長していくっていう指導をしたいです。

浅岡:田口さんが一緒に走ってくれることで子供達はどういう反応をするんですか?

田口:楽しんでくれていますね。「田口先生すごーい!」って喜んでくれたりもするので、子供たちには僕のことを「ただの走りを教える大人じゃないんだな」と思ってもらえてるんじゃないかと思います。さらに、選手でありながら指導者でもあることで「子供達の憧れの存在」にならないといけないなと思うので、自分自身も選手として成長する必要があるんです。選手として走っている自分の姿を子供達に見て「かっこいいな」とか「あんな走りをしたいな」とか思ってもらえれば、より陸上が好きになってもらえると思うので。

浅岡:そういった意味で「自分も子供たちと一緒に成長する」ということなんですね。

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陸上を通して一番伝えたいこと

浅岡:陸上の技術面以外の人間力という部分で子供達に伝えていることなどはありますか?

田口:実は僕が一番陸上を通して伝えたいことはその人間力の部分で。じゃあ、その人間力っていうのは何かっていうと、挨拶や感謝、相手を思いやるといった部分はもちろんなんですが、「周りの人がいるから自分は走れている」ということを僕は一番伝えたいです。陸上は個人競技のため、どうしても自分自分となってしまいがちになるので、そうではないよと。相手や一緒に走る仲間、お客さん、家族、自分を支えてくれる人。自分の周りに関わる人がいることで走れているんだよということを強く伝えたいです。

浅岡:なぜ、そう伝えたいと思ったんでしょうか?

田口:高校2年のインターハイの試合の時の経験があったからですね。試合って普通はチームみんなで行くんですけど、その試合で先生は僕をチームとは別でひとりで行かせて、ひとりで走らせて、ひとりで帰せるということをしました。その時に初めて、ひとりで陸上をやることはこんなにもつまらないものなのかと感じたんです。走るのが楽しいとか、楽しくないとかじゃなくて、「自分は誰かがいるから走っているんだな」ってその時に強く感じたので、その経験を子供達にも伝えたいと思いました。その頃は先生のただの嫌がらせだと思っていましが、当時、僕が応援されるような選手ではなく、それを気づかせるためにそうさせたのではないかと今では思います。

浅岡:なるほど。それを今、子供達にどのように伝えているんでしょうか?

田口:僕はそれを伝えるためによく子供達に、「この地球上に君一人だけになって、100mのタイムを測る?」って聞くんです。それに対してほとんどの子供達は「測らない」っていうんです。「じゃあ、なんで測らないの?」って僕がまた聞くと、「一緒に走る人がいないから」って答えるんです。それを聞いて僕は「そうだよね。誰かがいるから走るんだよね?じゃあ、自分の他に2人、3人いたら走る?」ともう一度聞くと、「走る!」と答えるんです。こういう問いかけを子供たちにして、陸上は「周りの人がいるから自分は走れている」ということを伝えています。

応援される人間になって欲しい


浅岡:人間力という部分で「周りの人がいるから自分は走れている」ということを伝えることで、子供達にどう成長してほしいのでしょうか?

田口:応援される人間になって欲しいです。極端な例えになってしまいますが、僕は指導する子供たちに「応援してくれる人が誰もいないオリンピック選手」よりも「応援してくれる人が100人にいる県大会選手」になって欲しいです。

浅岡:それはどんな理由から子供たちにそうなって欲しいと思うのでしょうか?

田口:確かに競技力においては前者の選手の方が後者の選手よりもすごいかもしれません。ですが、誰からも応援されない選手なのであれば、その選手はただ自分のためだけにしか、その競技をできていないと思うんです。それに対して、後者の多くの人から応援される選手は競技を通して、自分の周りの人に感動や勇気、影響を与えられる存在になれます。そんな存在になってほしいのでみんなから「応援される人間」になってほしいと思います。

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現在の指導

浅岡:現在はどこでどんな子を対象に指導をされているんですか?

田口:今は年長~小学6年生までの子を対象に都内各所で指導しています。

浅岡:そういった指導理念を持って子供たちに指導をして、子供たちの成長を感じれていますか?

田口:はい、すごく感じてますね。チーム力が日に日に深まっているなというのをすごく感じます。

浅岡:どういった場面でチーム力が深まっていると感じるんでしょうか?

田口:陸上教室の最後に行うリレーで自分のチームだけではなく、相手のチームの応援もしたり、お互いに「今のフォームこうだったから、もっとこうした方がいいんじゃないかな」などの声掛けをし合ったりというところから感じますね。自分や自分のチームだけでなく、一緒に指導を受けている仲間全員で一緒に成長しようという気持ちが子供達から強く感じられるので、僕が伝えたい「周りの人がいるから自分は走れている」ということを子供たちは受け取ってくれているんじゃないかと思います。

浅岡:走りのフォームやタイムの更新といった技術面·競技面での成長はいかがでしょうか?

田口:50m走を定期的に計っているんですけど、ほとんどの子供達が記録を更新することができています。

浅岡:どれくらいの期間で何秒ほどタイムを縮めることができているんですか?

田口:平均して0.3秒ほど50mのタイムを約10回の教室でみんな縮めていますね。

浅岡:タイムを更新することができたときの子供たちはどんな様子ですか?

田口:すごい喜んでいますね。自分が今まで頑張って積み上げてきたものがタイムの更新という数字で表れて、目に見えて成長できたと感じることができるので、それがとても嬉しいんだと思います。

長期的なビジョンでの指導

浅岡:田口さんの伝えたいことが子供たちに伝わって、なおかつ、それが結果にも表れて、とても充実した指導ができているんですね。

田口:そうですね。ただ、小学生を指導しているということで、そこには僕と生徒と保護者さんの3人の関係があって、その3人の目線というかビジョンみたいなものを合わせるという難しさを今は感じています。

浅岡:3人のビジョンですか。

田口:例えば、僕は「子供たちに陸上を通して、走ることを、スポーツ自体を好きになってもらいたいという想い」がある。けど、ある保護者の方は「とにかく子供の足を速くして欲しいという想い」がある。こういった想いのズレがおこりうるんです。もちろん今すぐにでも足を速くさせたい気持ちはありますし、それをする方法もあるんですけど、目の前のタイムだけに囚われた短期的なビジョンでの指導をしてしまうと、おそらく、どこかのタイミングで「陸上」や「走ること」をやめてしまうんじゃないかと思うんです。

浅岡:なぜ、やめてしまうと思うのでしょうか?

田口:本当の意味で陸上を好きになれないと思うからです。タイムだけに囚われて走ることが嫌いになってしまい、走ることの楽しさや体を動かすことの楽しさを知れていないので、僕の陸上教室を卒業したら、怪我をしたら、大人になったら、やめてしまう。けど、そうはなって欲しくない。なので、子供たちがどんな形でもいいので、この先の人生においてずっと陸上や走ることに関わりたいと思えるような長期的なビジョンを持った指導をしたいです。

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今後のビジョン


浅岡:最後に田口さんご自身の今後のビジョンを聞かせていただきたいです。

田口:陸上に恩返しをしたいという気持ちが強いので、競技者としては「東京オリンピック」に出場すること。競技外の部分では陸上の魅力を少しでも多くの人に伝えられる活動をもっとしていきたいと思っています。

浅岡:競技外では今後、どのような活動をしていきたいと思っているのでしょうか?

田口:孤児院や少年院などの様々な施設の人たちを対象にした陸上教室を開催したいなと思っています。

浅岡:なぜ、そのような人たちに陸上を教えたいと思ったのでしょうか?

田口:どのような理由でそこにいるのかは分かりませんが、そのような施設にいる人たちがもう一度、人生を再スタートするために陸上というスポーツが力になれるんじゃないかと思うからです。

浅岡:どのように力になりたいのでしょうか?

田口:イメージにはなるんですけど、孤児院や少年院にいる人たちはまだまだ体が動く若い人たちが多いと思うんです。その、まだ体が動く若い時に陸上を通して「走る楽しさ」や「体を動かす楽しさ」を知ってもらうことで、生きる活力みたいなものを感じてほしいです。そして、施設を出た後に、その活力を持って社会でイキイキと活躍して、その後の人生を楽しく陸上のように走り続けてくれたらそれほど嬉しいことはないので、そんな風に力になりたいなと思っています。

浅岡:そのような施設の人たちを対象にした陸上教室の開催事例はあるのでしょうか?

田口:いえ、僕が知らないだけかもしれませんが、おそらくまだ誰もやったことがない活動だと思います。だからこそ、やりたいんですよね。誰かがやってることはその人に任せて、誰もやっていないことを僕は僕なりにやりたいです。そして、その誰もやったことがないというのは、陸上と全く関わりのないような人たちに対して、陸上の魅力を知ってもらうことであると僕は思ったので、孤児院や少年院などの様々な施設の人たちに対しての陸上教室を開催したいと思いました。

浅岡:その活動が実現したら、陸上だけでなくスポーツ自体の魅力をより広めることができますよね。是非、実現させてほしいです!今日は田口さんのこれまでの陸上競技内外における色々なお話を聞かせていただきありがとうございました!

田口祐貴(たぐちゆうき)


400m、800m、1500mを専門種目とする陸上競技選手。競技外ではGrowSports代表理事、サンクススプリントクラブ講師を勤めている。選手として東京2020オリンピック出場を目指しながら、各地で陸上教室の講師として子供たちに走りの指導を行なっている。

GrowSportsとは?
GrowSports公式ホームページ

サンクススプリントクラブとは?
サンクススプリントクラブ

田口さんから読者の皆様へのメッセージ





田口さん



僕のことを知っている人も知らない人も最後まで読んでいただきありがとうございました。 競技も仕事もまだまだ力不足ではありますが、今でも支え、応援してくださる方達がいるので少しでも恩返しができるように頑張ります。そして子供達の成長、陸上競技の普及に力になれるように、僕自身ももっともっと成長していきます。ありがとうございました。



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