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【前編】東京五輪出場を目指す2つの死を乗り越えたアスリート~陸上選手&Grow Sports代表理事 田口祐貴氏~

浅岡大貴

公開日 :2019/05/17

更新日 :2019/05/17

昨今、アスリートの価値は競技内だけでなく、競技外でも発揮されるべきだという声を多く聞く。

競技外で何かしらのアクションを起こし、自分の価値を発揮することで、選手としてだけでなく、一人の人間としての魅力が生まれる・その後のセカンドキャリアに繋がる・競技内のパフォーマンスアップにも繋がるからである。

東京2020オリンピックが約1年後に迫ってきた今、その東京オリンピック出場に向けて競技内では個人で陸上選手として活動し、競技外では陸上教室の講師として子供たちに指導をしている一人のアスリートがいる。

田口祐貴さんである。

田口さんは陸上競技選手でありながら、競技外ではGrowSports代表理事とサンクススプリントクラブの陸上講師を務めている。

GrowSportsとは?
GrowSports公式ホームページ

サンクススプリントクラブとは?
サンクススプリントクラブ公式ホームページ

今回は田口さんに競技内外でどのようにアスリートとしての価値を発揮しているかお聞きさせてもらい、前編ではある理由がきっかけで一度辞め、3年間、陸上競技から離れていたが再び選手として復帰し、東京オリンピック出場を目指すに至った経緯について語っていただいた。

目次

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別に陸上じゃなくてもよかった

浅岡:まず陸上競技を始めたきっかけを教えていただきたいです。

田口:僕がスポーツを始めたのは、、、

浅岡:え?最初は陸上じゃなかったんですか?

田口:今は陸上選手として活動していますが、実は一番最初に始めたスポーツは水泳で、小学校1年生から中学2年生までやっていました。ですが、この水泳が陸上を始めるきっかけになったんです。

浅岡:どういうことでしょうか?

田口:その水泳の体力づくりの一貫で中学1年生から陸上を始めたんです。けど、水泳よりも陸上の方で結果が出始めてきたので、徐々に陸上の方にシフトしていきました。

浅岡:では、本格的に陸上を始めたのは中学1年生からということですね?

田口:いえ、それがそうとも言い切れなくて。本格的にという言い方をすると、陸上を本格的に始めたのは「大学2年生から」です。

浅岡:???。そうなると、中学1年生から大学2年生までの間は?

田口:中学と高校も陸上をやってたんですけど、今振り返ってみると、やってたというより「ただ走って、ただ戦ってた」という感じでした。

浅岡:「ただ走って、ただ戦ってた」ですか。では、陸上が「楽しい」からという思いで走っていた訳ではなかったということですか?

田口:はい。他の陸上部員や全国の陸上選手たちに「ただ負けたくない」っていう思いだけで走ってました。自分で言うのもあれですけど、僕はいろんなことに対して「負けず嫌い」で。その中で、一番時間を費やしていたものが、陸上だったので、その陸上では絶対に負けたくないっていう思いで走ってました。なので、「楽しく」陸上をやっていたという感覚は全くなかったです。

浅岡:なるほど。では、「負けず嫌い」という面から見ると、競技はもしかしたら陸上ではなくてもよかったということでしょうか?

田口:はい、そうですね。本当に「ただ戦いたい」という思いが強かったので、自分がより上の舞台で戦えるのであれば、別に陸上じゃなくても、どんな競技でもよかったです。たまたまそれが陸上であったというだけで。

トップレベルの選手たちとの差を感じた全国


浅岡:中学と高校の6年間を「負けたくない」という思いで走って、競技成績はどうだったんでしょうか?

田口:そういう思いで走って、中学でも高校でも全国大会には出場しました。

浅岡:練習をして、結果が出せた時の喜びはやっぱり大きかったですか?

田口:いえ、嬉しいというよりも安心という方が強かったですね。「よっしゃー!勝てた!」とか「全国大会に行けて嬉しい!」というよりかは「あっ、全国大会行けてよかったな」というホッとするような「安心」です。

浅岡:「安心」。なぜ、結果を出せているのに「安心」なのでしょうか?

田口:全国大会出場で喜んでるようじゃ、全国では戦えないと思っていたからです。別にあえて喜ばないようにしていた訳でもなく、全国大会に行けて当たり前という思いでやっていたので、「嬉しい」とかっていう感情は湧いてこなかったですね。

浅岡:では、全国大会出場が基準ということであれば、目標は優勝だったんでしょうか?

田口:優勝もそうなんですが、当時は決勝の舞台で全国の選手たち相手にどれだけ戦えるかという思いの方が強かったので、決勝のファイナリストになることが目標でした。

浅岡:ファイナリストには何回ほど?

田口:ファイナルには一回も行けませんでした。

浅岡:その時はどんな気持ちだったんですか?

田口:「自分とトップとの差はこんなにもあるのか」という悔しいという思いはもちろんありましたが、それよりも「トップはなんでこんなにも速いのか?自分と一体何が違うんだろうか?」という素朴な疑問を強く感じました。

浅岡:そういう思いをして、どういったアクションを起こしたんですか?

田口:中学と高校はただ出されたメニューをこなしていただけで、どうすれば強くなれるのかとかは全然考えてなかったですね。そういう意味で先ほどいったように本当の意味で陸上を始めたのは「大学2年生」からという言い方が正しいのかなって思います。

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陸上部を辞めた高校2年生。「死にたいと思った」


浅岡:なるほど。中学高校時代に目標であったファイナルの舞台に立てなかったという経験から「大学では勝ってやろう」という思いで本格的に大学から陸上を始めたという訳ですね。

田口:いえ、またその中学高校に勝てなかったという経験が元ではなくて、、。

浅岡:また、それも違うんですね(笑)

田口:はい(笑)。実は高校2年生の時に陸上を一度やめてるんです。

浅岡:え?陸上を一度辞めてるんですか?

田口:はい、高校2年生の時にした怪我が原因で辞めました。今度は陸上のために水泳を取り入れていたんですが、その水泳の練習の飛び込みの時に頭をプールの底にぶつけて、首の骨を折ったんです。全治4ヵ月の頚椎骨折でした。

浅岡:全治4ヵ月ですか。

田口:はい。それが本当に辛かったです。陸上生活の中での一番の大きな挫折というか一番苦しかった時期ですね。最初は集中治療室で寝たきりの状態で。お風呂もトイレも食事も全部。それでやっと回復してきて、寝たきりの生活が終わったかと思えば、今度は歩くために「ハローベスト」っていう頭に穴を開けてボルトを入れて頭を固定する治療器具をつけてなくちゃいけなかったんですけど、それも本当に気絶するぐらい痛くて。それでさらにその痛み抑える薬も飲んだですけど、薬の副作用で幻覚や幻聴、嘔吐とかが酷くなって。初めて心の底から死にたいと思いました。これだったら死んだほうがマシだと本気で何回も思いました。

浅岡:「死にたい」ですか。。。その苦しい時期をどう乗り越えたんですか?

田口:入院時やリハビリ時に本当に多くの仲間や友人、家族に支えてもらいました。その時に「あっ、自分はこんなにも多くの人に支えられているんだ。自分は一人じゃないんだ」って気づいたんです。その自分を支えてくれる人たちの存在を知ったことで一番苦しい時期を乗り越えることができました。怪我の直後には医者に「もう2度と歩けないかもしれない」とも言われたんですが、その人たちに支えられて、その支えに応えるためにも苦しい治療やリハビリを頑張って怪我を乗り超えて、もう一度歩けるまで回復することができました。

浅岡:そこから陸上に復帰しようとはならなかったのでしょうか?

田口:当時はあまり陸上が好きではなかったことと、その入院時に支えてくれた人たちへの恩返しとしてこれまで陸上ばかりに時間を使い、その人たちと一緒の時間をなかなか過ごせていなかったので、陸上を辞めて一緒の時間を多く過ごすことで恩返しをしたいという思いがあったので辞めました。その時は陸上をすることが恩返しになるとは思っていなかったので。

一番恩返しをしたかった祖母の死がきっかけで

ー死にたいとまで大怪我をして一度陸上を辞め、次に陸上を始めたのはいつですか?

田口:大学2年の時です。

浅岡:3年間、陸上から離れていたわけですね。なぜ、また陸上を始めようと思ったんですか?

田口:祖母が大学1年の終わりの時に亡くなったのがきっかけで、また陸上を始めようと思いました。僕、すごいおばあちゃん子で、すごくおばあちゃんにお世話になったので、ずっとおばあちゃんに恩返しをしたいと思ってたんです。ですけど、急性クモ膜下出血で突然亡くなって。恩返しができずにおばあちゃんとお別れすることになって、すごくそれが心残りでした。それでもう直接は恩返しできなくなってしまったんですが、どうしたらいいのかってずっと悩んでいたんです。

浅岡:それでどんな答えを?

田口:おばあちゃんが亡くなった時期と同じぐらいの時に東京オリンピック開催が決まりそうだったんです。そんな時に僕がどうおばあちゃんに恩返しをしたらいいか悩んでいたら、とある友人から「お前には陸上があるだろう。もう1回陸上を始めて、東京オリンピックを目指すことが一番のおばちゃんへの恩返しになるんじゃないか」と言われたんです。たしかにそう言われて、僕も「東京オリンピックに行けるかどうかは別として、本気で東京オリンピックを目指すことで夢を持って全力で頑張る姿とその成長が恩返しになる」と思ったので、「おばあちゃんに恩返し」をするためにもう一度陸上をする決意をしました。

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「自分のため」ではなく「支えられている人のために」走る


浅岡:ここから田口さんにとっての「本当の意味での陸上」が始まった訳ですね。3年のブランクを経て、再び大学で陸上を始めるに当たって、難しさはなかったですか?

田口:筋肉は落ちて体重も増えてと身体的に厳しく、全国に出場するには入部した時の記録よりも20秒近くタイムを縮めないといけませんでした。ですが、僕には東京オリンピック出場という明確なゴールと支えられている人のために走るという目的があったので、とにかく陸上に全てを捧げることができました

浅岡:具体的にどのようにその3年間のブランクを埋めていったんでしょうか?

田口:大学2年の終わりと3年生の前期には履修登録を一つも取らずに、朝・昼・夜と毎日3部練習しました。また当時、僕は2年生で陸上部に入部し、立場的には1年生と同じだったので練習で使う道具や水を準備をするんですが、それよりも1時間早く前に来て、一人で全部準備を終わらせて、そこから自分の練習の準備をしてという風にして練習する時間を作ってやってました。その結果、復帰から1年で全日本選手権(インカレ)にも出場することができました。

浅岡:陸上との向き合い方は中学高校の時とは違いましたか?

田口:全く違いましたね。走る原動力が違いました。中学高校時代の時は「自分が勝つために」とか「自分が負けたくないから」という「自分のために」走っていたんですが、大学では祖母の死をきっかけに亡くなった祖母のため、怪我の時に感じた自分を支えてくれている「人のために」走りたいと思って走っていたので、心の底から湧いて来るパワーみたいなものは全く違いました。あとは結果に対する受け止め方も自分の中で大きく変わりました。

浅岡:どう変わったんでしょうか?

田口:勝った時の喜びが全然違いました。先ほども言いましたが、前は勝っても「自分のために」ただただ走っていただけだったので嬉しさはあまりなかったのですが、「誰かのために」走るようになってその人のために勝てたという喜びがものすごく大きかったです。あとは一緒に喜んでくれて、一緒に悔しがってくれる仲間もいたので、それもものすごく嬉しくて、走ることがとても楽しかったです。

浅岡:「自分のために」走っていた中学高校時代と「支えられている人のために」走った大学時代ということですね。

【後編】


後編では不動産会社員と陸上選手の2足のわらじを履きながらの経験や陸上教室の講師としての子供たちへの指導、今後のビジョンなどについての競技外でのことについて語っていただいた。
後編

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